


【10】介護サービスにおける品質管理の重要性について

1.介護サービスにおける品質管理の重要性
●前回の「【9】不適切な介護サービスを提供しないためには」に関連したことでもあり、介護サービスにおける品質管理の考え方や、実現するための方法(対応)等について説明します。
●この品質管理については、ケアプランを考える場合においても、「何のための計画か」「何を計画するのか」「どういう内容を計画(記述)するのか」等、基本的な疑問に対する答えのひとつとして、とても重要なポイントになります。
●ただし、介護現場の方々にとっては、「品質」という言葉そのものが、いわゆる「聞きなれない」「違和感がある」などと思われる方も少なくないのではないでしょうか。
●また、この品質管理という考え方や、その様々な方法などについて理解するのは大変に難しい内容であると思います。そこで、ここでは簡単な内容にとどめ、詳しい内容は「ケアプラン特別講座」で説明します。
●最初に前提として、介護サービスは「品物」ではないので「品質管理」とは関係がないと思われる方もおられるかもしれません。介護サービスは確かに「形がある物」ではありませんが、「品」であることには変わりなく、例えば、品質向上のために作られたISO(国際標準化機構/国際統一規格)の「ISO9001」を取得されている特別養護老人ホームが数年前からあり、この介護保険制度創設を機に取得された(取得中)施設も増加しているようです。
●また、介護現場の方々が「品質」というと、何度も書いている「適切さ」とか、「上質さ」「高度さ」等といった基準や感覚で考えられる場合が多いように思います。
●例えば、自動車で言えば「速い」「燃費の良さ」「乗り心地の良さ」等が品質を表わす基準もあり、介護サービスと似ていると思われるのではないでしょうか。
●しかし、もう一度良く考えてみてください。「速い」「燃費の良さ」「乗り心地の良さ」等は、自動車のメーカー、型式等での比較の問題であって、全く同じ型式や年式の自動車において比較されることはあるでしょうか。
●つまり、同じ自動車なのに、友達が買ったものは速いのに、自分が買ったものは遅い等といった「当たり外れ」は基本的にはないはずです。もしあったら、即にクレーム、取り替えの対象です。
●同じ商品は、「どこで買っても」「いつ買っても」「誰がかっても」同じ品質なのです。その品質を保証(品質保証)することも品質管理の大変に重要な目的なのです。
●介護サービスが「提供者によって」「提供機関によって」「提供する場所によって」「提供する時によって」等、「当たり外れ」が生じることは許されることでしょうか。要は、介護サービスは利用者ごとの「個別性」であって、提供者側の都合によって介護サービスの種類や、質と量等に「バラツキ」があってはならないということで、これこそがケアプランの基本的な考え方だと思います。
●もちろん、品質の「バラツキ」を無くすことが重要だといっても、介護サービスが「画一的」であってはいけませんし、利用者の状況等に即した「臨機応変」な対応は必要なことは当然です。
●前述の自動車の例は、「商品の信頼性」であり、それを「介護サービスの信頼性」と捉えれば、介護サービスにおける品質管理がいかに重要かということが分かっていただけるのではないでしょうか。
●実は、以上のようなことを私の基本的な考え方として10年以上前から言い続けてきましたし、ケアの品質を管理する方法として、色々なケアのメニュー表やチェック表、マニュアル等を作成し、その他の方法も試行錯誤を繰り返してきました。最初の頃は一方的な強い批判も受けました。しかし、介護保険制度創設が論議される頃になると多くの方々の理解を得るようになり、介護保険制度創設により株式会社等の営利団体が参入するようになると、一気に「当たり前」の話しになったような気がします。
●なお、最初に書きましたように、この品質管理については大変に重要であり、理解するのも難しい内容であるため、「ケアプラン特別講座」で説明します。
2.介護サービスにおける品質管理を行なうためのポイント
@品質の方針及び目標を徹底(明確化)すること
●先ずは、提供する介護サービスの内容や、質と量等。分かりやすく言えば、自分のところ(施設や事業所等)で提供できるレベルや、方針等を決めることです。そのレベル以下には絶対にしないという具体的な体制づくりが重要です。
●施設や事業所として、経営者としての「理想」や「理念」はきわめて重要です。その理想や理念を実現するための明確な方針と、実現可能な目標を決定することです。理想や理念だけを掲げても実現は難しいと言えます。
●その方針や目標を徹底するためには、文書化することも重要ですが、チェック機能も含めた体制(組織)作り、そして後で説明する業務の標準化が必要となります。
●つまり、例えば「利用者本位の生活全般を支える介護サービスを提供すること」という理想だけでは、実際に介護サービスを提供する方々は「百人十色」の考え方と方法になると思います。
A品質の情報を解析し適切に対応や予防をすること
●ここでは大きく分けると2つポイントがあります。先ずは、品質の情報を解析することの重要性です。
●品質を管理するといっても、判断やチェックする情報を集積しないことには「経験と勘」の世界になってしまいます。そして、データは集積するのが目的ではなく、それを活用する、つまり解析して役立てることが重要なのです。「データのためのデータ」「記録のための記録」だけでは、時間(労力)の無駄になってしまいます。
●また、もっと言えば解析するためのデータをとれるかどうかが明暗を分けます。
●次に、適切な対応や予防を行なうことです。特に介護サービスにおいては、サービスという特性に加え、専門性も要求されますので、この予防することの重要性はきわめて高いと思います。
●つまり、「物」なら作り直しができますが、介護サービスは「やり直し」がきかないのです。
●なお、介護サービスにおいては、利用者の状況の変化とともに、ケアプランとそのモニタリングと評価が重要なデータとなります。
B品質に問題があれば直ちに対応すること
●上の「A品質の情報を解析し適切に対応や予防をすること」と問題が生じれば、「直ちに」対応することです。
●「今後」「明日」「後で」等では「改善のチャンス」を逃すだけでなく、「悪循環のスタート」となってしまう危険性があります。
C適切な提供の環境や体制を確保すること
●このことについては、最初の「@品質の方針及び目標を徹底(明確化)すること」や、前回の「【9】不適切な介護サービスを提供しないためには」でも説明したように、とても重要であり、また最も時間も努力も必要となります。
●しかし、「継続は力なり」という言葉がありますが、継続さえすれば良いわけではないですから、統制のとれた計画的な環境や体制づくりの継続が「力」となると考えるべきです。
D体系的で継続的な教育を実施すること
●現在の多くの研修は、俗に言う「単発」の研修であり、「習熟」して行くには難しい環境にあります。
●国は今後、介護支援専門員の方々に関しての研修をレベルごとに細分化すると思われます。例えば、初任者対象の現任研修と中級者以上の専門研修。そして更にリーダー研修やスーパーバイザー研修等です。
●ただし、教育は時間がかかります。今はその「枠組み」を作る段階で、今後そのテキストや研修方法の試行錯誤が行なわれますし、実際に始まっています。
●もう一方で、研修の成果は、「受けて側」によって大きく左右されます。情報は「与えられる」ものではなく、「努力して掴み取る」ものだという意識改革が必要です。
E業務等を標準化すること
●介護支援専門員の業務は標準化されているでしょうか。給付管理業務は標準化されているでしょうか。
●上の「C適切な提供の環境や体制を確保すること」や「D体系的で継続的な教育を実施すること」と相互に関係しながら業務の標準化が確立されて行くのでしょう。
●業務が標準化できていない状況では、体制作りも、研修も、そして評価すらできないわけですから、この業務の標準化は最優先に実現しなければならないことだと思います。
Fサービス提供者のモチベーションを維持・向上させること
●ことのことが最も重要で、現在、介護現場の方々の切実な悩みではないでしょうか。
●第1回の介護支援専門員の試験の時に思い描いていた理想と現実のギャップ。給付管理業務や請求業務といった煩雑な事務作業の連続。パソコンとの「睨めっこ」・・・。
●そして、「燃え尽き症候群」や、道に迷ってしまった状況。決定的な解決の方法はありません。遠回りでも、初心に返り、仲間を作り、気晴らしの趣味を持つ等・・・。
●そういうことに、この「ケアプランの広場」が少しでもお役に立てればと切望し、今後も更なる内容の充実に努力して行きます。そして、一緒に頑張りましょう。
<2002年 1月 3日掲載>

